安寧の視点からまちやコミュニティを考える。「健康まちづくり 2026」出展レポート

こんにちは。一般社団法人安寧社会共創イニシアチブ(AnCo)の小倉ちあきです。

2026年7月16日(木)、東京・秋葉原UDXで開催された「まちづくりデザインWEEK GXDX CITY・地域交通MaaS・健康まちづくり」に、AnCoは「特別協力」団体として参加してきました。

主催は株式会社JTBコミュニケーションデザインと健康まちづくり実行委員会で、都市のDX化、超高齢化、自然災害の多発など、いま各地のまちが直面している課題を、最先端の技術やサービスの力で解決していこうという展示会です。

当日はAnCoも会場内にブースを構え、AnCoの活動を多くの方にご紹介させていただいたほか、ギャラリーNEXT-3で「企業や文化活動から広がる健康まちづくり」をテーマにした共催企画を実施しました。登壇したのは4名、AnCoの近藤克則代表理事と高木大資理事、そして大日本印刷(DNP)の磯田和生氏と、日本カルチュアプレナー協会の足立毅氏です。

この記事では、その日会場で語られた内容をレポートします。

社会的インパクト評価の考え方を解説:AnCo理事・高木大資氏

トップバッターは、AnCo理事の高木大資氏(京都大学 特定准教授)です。テーマは、「企業・文化活動の社会的インパクト評価」。まず「社会的インパクト評価とはそもそも何か」という基本の考え方からスタートしました。

社会的インパクト評価とは、簡単に言うと、ある活動が人や社会にどのような変化をもたらし、目指す社会の実現にどの程度つながっているのかを、言葉や数字で確かめていくための考え方です。文化芸術や健康まちづくりの現場では、参加した人の気持ちが明るくなったり、人とのつながりが生まれたりと、目に見えにくい価値がたくさん生まれています。でもそれがきちんと確かめられていないと、せっかくの良い取り組みも「なんとなく良さそう」で終わってしまい、続けていくための後押しを得にくいのです。

そのうえで、事業に投じたお金や人といった資源が、どんな活動を生み、その活動がどんな成果を生み、参加した人にどんな変化(アウトカム)をもたらし、最終的にどんな社会の姿(インパクト)につながるのか。この一連のつながりを描いた地図のようなものを「ロジックモデル」と呼びます。

話を聞いて興味深かったのは、行政・企業・研究者では「評価」という言葉に抱くイメージがそれぞれ違う、という話題です。行政では「何箇所に拠点を作ったか」といった実績、研究者では厳密な効果検証、企業では投資に見合う効果が重視されるなど、それぞれが「評価」として思い浮かべるものにズレがあります。そのズレを翻訳し、みんなが同じ地図を見られるようにするのがロジックモデルの役割です。

豊田市で行われた事業の例では、通いの場に参加した人と参加しなかった人を比べたところ、参加した人の方が地域とのつながりを保てていたというデータも紹介されました。「アカデミアだけでやる評価では、機序がわからず、社会を一緒につくっていくには足りない」という言葉には、私たちAnCoが目指す産官学民の連携の大切さが重なるように感じました。

文化の力を健康の視点で:日本カルチュアプレナー協会・足立毅氏

続いて登壇したのは、日本カルチュアプレナー協会の足立毅氏です。テーマは、「カルチャープレナーと進める健康まちづくり」。カルチャープレナーとは、文化をテーマに事業を営む事業家を指す言葉。学生サークルから会社になり、いまではYAMAHAとの共同事業として親子向けの「絵本の音楽会」を全国で展開しているオトギボックスさんなど、京都・関西を拠点にする元気な事業家たちを紹介してくださいました。

昨年、関西広域連合の文化事業の一環として、AnCoと連携し、親子向けの「絵本の音楽会」と、銀行員や一般の参加者を対象とした対話型絵画鑑賞会について「健康影響評価(HIA)」を実施。参加する前と後でアンケートを取り、終わったあとには座談会も開いたところ、癒しやリラックス、自己肯定感や人への共感といった前向きな変化が見えてきた一方で、会場までの交通費や参加費といった経済的な事情で、参加したくてもできない方がいることも見えてきたといいます。文化体験のポジティブな価値を広げるとともに、参加を妨げる条件を減らすために、評価を今後の活動改善へつなげていきたいと語ってくださいました。

XR技術でまちの記憶をたどる:大日本印刷(DNP)・磯田和生氏

大日本印刷(DNP)の磯田和生氏からは、XR(仮想現実などの技術)を使った「みどころウォーク®」というしくみの紹介がありました。手すりの間を行ったり来たりするだけで、ルーブル美術館やフランス国立図書館の大きな空間を、まるで歩いているかのように体験できるという技術です。

もともとは、コロナ禍で実物作品を日本へ持ち込めない状況をきっかけに、フランス国立図書館の巨大な天井画と建築空間のスケール感をVRの中でどう実感してもらうかを考え、限られた現実空間を安全に歩きながら広大なXR空間を体験する仕組みとして開発されました。その後、東京藝術大学のアート共創プログラムなどを通じ、文化的処方や地域課題への応用が進められています。

千葉県浦安市では、埋め立てが進む前の古い護岸(かつての海岸線の名残)が各地に残っていて、老朽化のため近づけない「まちの謎の遺物」になっているという課題があるそうですが、この技術を使って、昔の海岸線や子どもたちが描いた未来の絵と一緒に護岸を歩く体験を通じて、住民のみなさんが同じ目線でまちの課題について語り合う場としても活用されているとのことでした。今回は演劇の手法を取り入れたワークショップを通じて、社会にどんな影響がありそうかをみんなで議論し、仮のロジックモデルを描いたそうです。

「体験してすぐに生まれる驚きが、誰かに話したくなる気持ちにつながり、それが人と人とのコミュニケーションのきっかけになるのでは」という議論から、最終的には人々のウェルビーイングの向上や孤立感の解消につながっていくのではないか、というシナリオが見えてきたといいます。

活動の価値を、共創から社会実装へ:AnCo代表理事・近藤克則氏

最後に登壇したのは、AnCoの代表理事・近藤克則氏(千葉大学予防医学センター特任教授)です。テーマは、「企業・文化活動がなぜ健康まちづくりにつながるのか」。近藤氏がまず語ったのは、AnCoという場の役割についてでした。企業や団体が漠然と持っている「やりたいこと」を、研究者と一緒に検証できる形に整理し、実際に社会へ実装するところまで伴走する。それがAnCoの目指す姿だといいます。その先行例として紹介されたのが、AnCo設立のきっかけにもなった千葉大学「WACo(Well Active Community)」の取り組みです。

坂道の多い住宅地にグリーンスローモビリティを走らせたところ、外出や歩行が増えただけでなく、家族以外との会話や地域活動への参加が増えた人が8週間後には4割近くにのぼりました。継続して運行した地域では要介護リスクが下がり、今後6年間で1500万〜2000万円ほどの介護費抑制につながる見込みだといいます。一方で、運行が途中で減ったり止まったりした地域では効果が見えづらく、「続けられる仕組み」自体が成果を左右することもわかってきました。

近藤氏は、こうしたデータをもとに、成果に応じて行政が事業者に対価を支払う「成果連動型民間委託方式(PFS)」のような仕組みも実現できると説明。介護費だけでなく、人とのつながりや孤独感の解消といった目に見えにくい価値も、金額に置き換えて評価する試みも進めているといいます。DNPや日本カルチャープレナー協会が紹介した取り組みも、同じように価値を整理し、検証し、社会へ広げていく――その受け皿になりたい、というのが近藤氏からのメッセージでした。

パネルディスカッション:産官学民の強みをつなぎ、個別の実践を社会の仕組みへ


パネルディスカッションは、「なぜ安寧という言葉を選んだのか」という質問から始まりました。近藤氏は、当初検討したウェルビーイングではなく「安寧」を選び、呼びやすさから法人名をAnCo(あんこ)としたと明かしました。

続いて話題になったのは、異なる立場が同じテーブルについたからこそ見えてきたものです。足立氏は京都府北部・南部で文化体験の機会が少ないという行政の悩みを、磯田氏は演劇的ワークショップを通じて漠然とした価値が言葉になった手応えを紹介。近藤氏はそこから「文化体験の少ない地域と、施設がなくても届けられるXR技術を組み合わせられるのでは」と即興で提案し、会場が沸きました。異なる課題と技術がその場で出会う――これこそAnCoらしい共創の瞬間だったように思います。

印象的だったのは、お祭りに参加していた人は、その後、健康効果が確認されている継続的な地域活動にも参加する確率が2〜3割高いという近藤氏のデータ。健康を目的としない文化活動にも、社会参加を後押しする力が潜んでいることがうかがえました。

会場から「評価にどれくらいの期間とデータ量が必要か」と質問が飛ぶと、高木氏は「最終的な検証には5〜10年かかることもあるが、数か月〜1年で見える初期の兆しから段階的に広げればいい」と回答。近藤氏も、1自治体では5年かかった検証が30自治体分を束ねれば3年、先行指標を使えば半年で差が見えた例を続けました。

最後は、元厚生労働事務次官・村木厚子氏の言葉で締めくくられました。「0から1をNPO、1から10を研究者、10から50を企業、50から100を行政が担う」。異なる主体が強みを持ち寄り、課題の発見から実証、普及、制度化までをつなぐ――それがAnCoの目指す共創の姿です。

おわりに

AnCoは現在3期目を迎えており、2026年10月に設立から2年を迎えます。文化や健康にまつわる取り組みは、効果が数字になりにくいぶん、どうしても過小評価されがちです。だからこそ私たちは、これからも研究者や文化事業家、企業のみなさんとタッグを組みながら、価値を見える化する挑戦を続けていきます。

今回のまちづくりデザインWEEKでの出展も、その一歩です。ブースに立ち寄ってくださったみなさま、登壇してくださったみなさま、ありがとうございました。AnCoの今後の活動に、どうぞご注目ください。

AnCoの活動にご興味ある方はこちら(info@annei.org)からご連絡ください。